音楽演奏利用者団体|日本の音楽これで委員会

【JASRAC問題と、演奏曲目入力システムについて】


記:弁護団代表弁護士: 第二東京弁護士会 八王子合同法律事務所 和泉 貴士

(1)音楽とのかかわり

子どもの頃、芸術というものの存在意義を母親から教えられました。彼女は文学と絵画が好きで、私にいろいろな作品を見せながらよく言いました。「人生に辛 い時は必ず来る。そういうときに芸術が助けてくれる。」と。その教えを守って、私も辛い時はアートというものに随分と助けられてきました。

音楽を聴くようになったのは、中学1年生の頃。ラジオの英会話を勉強するからと言って、親にラジオを買ってもらいました。すぐに英会話はそっちのけで、夜 の音楽番組を聞くようになりました。FMは洋楽が多くて良く分からなかったので、AMを聞きました。当時はTBSラジオが好きで、松宮一彦さんがDJを やっているサーフアンドスノーという番組を、親に隠れて毎晩聞いてました。その頃流れていたのが爆風スランプ、BOØWY、プリンセスプリンセス、TMネッ トワーク、X、尾崎豊といった80年代前後にヒットした音楽。全くの偶然で、大人になってから爆風スランプの元メンバーの方々と仕事で関わることになりま した。

(2)音楽産業の変化

1年ほど前から、音楽産業の未来と、著作権管理のあり方について考える機会を持つようになりました。
世界的な潮流ですが、CDが売れない。もはや音源は買うものではなくて、youtubeその他ネットで無料でダウンロードするものになってしまっている。 ニコニコ動画にはボーカロイドの曲があふれ、新人は無料でデビュー曲をユーチューブに流してその再生回数で人気を計る。

ミュージシャンは、音源ではなくライブや関連するグッズ販売を収入源にして活動する方向性にシフトしつつあります。それに応じる形で、JASRACの資金 源も変化する。小規模なライブハウス、飲食店、結婚式場、音楽を流すあらゆるお店が徴収強化の対象になりつつあります。

音楽業界の産業構造の変化と、昔ながらの著作権料徴収方法のまま、徴収強化を進めるJASRAC。
他方で、ライブハウス、ミュージシャン、ファンの利益が害されている現状があります。

(3)「包括徴収」による著作権料徴収の問題点

JASRACの著作権徴収のなにが問題か。
問題の本質は、「包括徴収」というJASRACによる著作権料の徴収方法にあります。

JASRACの著作権徴収は、必ずしも実際に演奏されている楽曲に対応していません。つまり、「日本中のライブハウスでいつどんな曲が演奏されたかいちい ち調べるのは面倒、というか無理。」という理由で、「フロア面積や客席数あたり○円」というかたちで著作権料を計算しています。

実際には、ライブハウスの中には、JASRACが管理していないようなマイナー曲や、著作権の保護期間が切れた往年の名曲ばかりが演奏されるライブハウスもあります。しかし、現状では包括契約によって画一的に客席数に応じて著作権料を徴収されている。

そして、ミュージシャンへの著作権料分配にも包括契約は影響を与えます。
先述したように、包括徴収のシステムでは、どのライブハウスで何の曲が演奏されたかカウントしないまま著作権料の徴収を行います。徴収した著作権料につい ては、全国のライブハウスでどのような楽曲が演奏されたのか「サンプリング調査」を行い、サンプルデータの中で演奏回数が多い曲から順に、徴収した著作権 料を分配する。
しかし、この「サンプリング」をどのように行っているか、具体的な分配比率は明らかにされていません。実際ミュージシャンが自作のJASRAC登録曲を演 奏しても、著作権料の支払いがないということがしばしば発生します。インディーズの隠れた名曲や、メディアを使って大規模マーケティングをすることを潔し としなかったミュージシャンの音楽は、著作権料の分配という局面においては存在しないに等しい扱いを受けてしまうことがあるのです。

さらには、ミュージシャンへの著作権料分配が正確になされないことによって、ファンも不利益を被ります。
著作権料は、ファンがライブハウスで支払ったチケット代やチャージを原資として、JASRACに支払われています。自分が好きなミュージシャンのためにラ イブハウスに行って支払ったお金が、実は、全然知らないアイドルやグループに著作権料として分配されていた、なんてことも現状のシステムでは十分に起こり 得ます。

(4)「包括徴収」を廃し、「演奏曲目入力システム」へ

日本中の全てライブハウスののセットリストを調べて統計を取ることは、以前であれば難しかったかもしれません。
しかし、今のネット社会であれば、ライブハウスごとに演奏曲を管理報告すること自体、それほどのコストはかからないはず。ミュージシャンやライブハウスや ファンが、自分でセットリストを保管し、データ入力してJASRACに報告すればいい。げんにアメリカでは、既に一曲ごとに分配漏れをゼロにする仕組みが 出来上がっているそうですから、日本でできない理由はありません。なお、昨年東京高裁は、包括契約が独占禁止法違反であるとの判決を出しました。これは全 く別事件ですが、包括契約が既に役目を終え、新しい制度の構築が必要な時期を迎えつつあることを示していると思います。

私たちは、ネットを使って日本中のミュージシャンとライブハウスやファンが、演奏曲を管理し、JASRACに報告するためのシステム、「演奏曲目入力シス テム」を提案するため、運動を進めています。元爆風ベーシストの江川ほーじんさんを中心に、2014年末からシステムの一般公開を行って。

ミュージシャンにとっては、未払いの著作権料を請求する根拠として使えます。ライブハウスにとっては、過剰な著作権料請求にNOを突き付ける根拠として使 えます。ファンにとっては、自分がミュージシャンのために支払ったチャージが本当にミュージシャンの支えになっているか確認することができます。将来的に は、利用者を増やしてJASRACのサンプリング調査を超える精度を誇るものにしていきたいと思っています。

私の敬愛するセックス・ピストルズのジョン・ライドンが音楽産業に噛みついたように、私も音楽産業の仕組みや音楽資本に噛みつく人々のサポートに尽力して みたいと思います。日本の音楽、ミュージシャンの未来を守るために、これを読んだ方も是非ご協力ください。知人にミュージシャンがいる方は、是非声をかけ てください。また、寄付を頂ける方も大歓迎です。

以下は今までの流れについて、ご参考まで。

演奏曲目入力システムについて
http://www.targma.jp/vivanonlife/2014/11/post68/

江川ほーじんさんのブログ
http://www.egawahojin.com/?p=1269

ファンキー末吉支援者の会
http://www.simplepile.jp/?page_id=1077