2015.4.28
日本の音楽これで委員会
1 はじめに
本日、最高裁第3小法廷において、JASRACが従来採用していた包括契約にもとづく著作権徴収システムについて、他の事業者の市場参入を著しく困難にするものであるとの判決が下されました。
上記判決はテレビなど放送事業者とJASRACの契約関係に関するものではありますが、ライブハウスとの関係においても同様の論理があてはまるものであり、全国のライブハウスの著作権徴収のありかたに大きな変化をもたらす可能性があります。
わたしたちは、従来からJASRACの著作権料徴収システムに大きな問題があることを指摘し、著作権料の徴収は一曲ごとに行うべきであること、また、今日 のネット環境の大きな変化のもとでは私たちが主張する一曲ごとの徴収は実現可能性が高い提案であることを主張してきました。
わたしたちは、本日の最高裁判決によって、従来の著作権料徴収のありかたに疑問が呈され、大きな変化が生まれる可能性があることを評価し、歓迎します。
2 JASRACによる著作権料の包括徴収とその問題点
JASRACの著作権徴収は、必ずしも実際に演奏されている楽曲に対応していません。つまり、日本中に多数存在するライブハウスについて演奏曲目を全て調査するのは技術的に困難であるとの理由により、フロア面積や客席数を基準に著作権料を計算しています。
実際には、ライブハウスの中には、JASRACが管理していない楽曲が演奏されるライブハウスもありますし、ジャズなどを中心に著作権が既に消滅した古い 楽曲を演奏する店舗も少なくありません。しかし、現状では上記のような事情は一切考慮されず、包括契約によって一律に客席数に応じた著作権料徴収が行われ ています。潜在的には著作権料の過払いが生じている店舗も多数存在することが予測されます。
そして、上記徴収方法は、ミュージシャンへの著作権料分配の正確性にも影響を与えています。
先述したように、包括徴収のシステムでは、どのライブハウスで何の曲が演奏されたかカウントしないまま著作権料の徴収を行います。徴収した著作権料につい ては、全国のライブハウスでどのような楽曲が演奏されたのか「サンプリング調査」を行い、サンプルデータの中で演奏回数が多い曲から順に、徴収した著作権 料を分配します。
しかし、この「サンプリング」をどのように行っているか、曲ごとの具体的な分配比率や計算根拠はきわめて不透明です。実際ミュージシャンが自作の JASRAC登録曲を演奏しても、著作権料の支払いがないという事態がしばしば発生します。マイナーミュージシャンの音楽は、事実上、著作権料分配という 局面においては存在しないに等しい扱いを受けてしまうことがあるのです。
さらには、ミュージシャンへの著作権料分配が正確になされないことによって、ファンも不利益を被ります。著作権料は、ファンがライブハウスで支払ったチ ケット代やチャージを原資として、JASRACに支払われています。自分が応援するミュージシャンのためにライブハウスで支払ったお金が、音楽家や楽曲提 供者に支払われないといった事態が生じています。
3 本件判決の評価
本日の最高裁判決は、包括徴収について競業他社に対する市場参入を困難にするものである旨、指摘したものです。
つまり、JASRACとの包括徴収契約を締結している放送事業者が、他の著作権管理団体(本件では株式会社イーライセンス)が管理する楽曲を使用したいと 考えたときに、JASRACによる包括徴収と株式会社イーライセンスへの楽曲ごとの著作権料徴収とを二重に受けることとなります。これでは誰も株式会社 イーライセンスの管理楽曲を使用したいとは考えなくなるため、上記会社が市場から排除されてしまう効果を有するとの判断を行っています。
最高裁の判断はあくまで独禁法違反の観点からの指摘にとどまるものであり、私たちが主張してきた包括徴収の問題点とは若干視点が異なるものではあります。 しかし、同様の二重取りの問題は、今後JASRAC以外の著作権管理団体がライブハウスにおける著作権徴収事業に進出する場合にも発生し、放送事業者の場 合と同様に独禁法に抵触する可能性が生じます。したがって、JASRACと包括契約を締結している全国のライブハウスについて、契約のあり方を抜本的に見 直す必要があることは明らかです。
4 本件判決後の将来への展望
(1)「演奏曲目入力システム」を用いれば独禁法違反の問題は生じない
私たちは、ライブハウスにおける著作権徴収について、現実に演奏された楽曲に対応する形で行う個別徴収を提案してきました。個別徴収であれば、演奏された 楽曲に応じてそれぞれ著作権を管理する会社に対して支払えばよいので、私たちが提案する「演奏曲目入力システム」を使うかぎり独禁法違反の問題は生じませ ん。
(2)JASRACも同様の楽曲報告システムを採用
JASRACは2015年3月31日、「契約施設利用曲目報告システム(J-OPUS)」の利用開始を発表しました。JASRACの対応は、ライブハウス で演奏された楽曲について曲別の報告をおこない、それを著作権料の分配に反映させることができるという点で、わたしたちが提言し続けてきた「演奏曲目入力 システム」に追従する内容のものです。
(3)JASRACの採用したシステムの問題点と将来への展望
しかし、J-OPUSは著作権分配の透明性を高める効果まで有するものではありませんし、ミュージシャンによる報告を一切認めていない点でも大きな問題があります。また、JASRACが管理していない楽曲や著作権消滅曲の演奏については報告できない点も問題です。
いずれにせよ、わたしたちもJASRACが著作権徴収については変化を模索していること自体は歓迎したいと考えています。もっとも、現在の著作権徴収のあ り方にはまだまだ多くの矛盾が残されていることも事実です。わたしたちが主張する著作権料の曲別の徴収および分配を実現させるために、今後も提言を続けて いきたいと考えております。
日本の音楽これで委員会
指揮: 江川 ほーじん
弁護団代表弁護士: 第二東京弁護士会 八王子合同法律事務所 和泉 貴士
運営管理: 河崎 覚